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子供のPTSD対応

2004年10月23日

新 潟 県 中 越 地 震

地震の影響 子ども達のPTSD 資料


 PTSDとは、Post‐Traumatic Stress Disorderの略で、心的外傷後ストレス障害のこと。不慮の事故や災害など、思いがけない体験が心の傷となり、後にその記憶が様々なストレスとなり、不眠や不安、悪夢や恐怖、無気力感などの症状をもたらすことを言います。子どもの場合、指しゃぶりをしたり、母親から離れないなどの「退行現象」が起こったり、暴力を振ったりという行動に現れることもあります。
 しかし、PTSDの症状は異常な反応とはとらえず、誰にでも生じるうる自己防衛から来る「異常な状況に対する正常な反応」なのです。

 PTSDは一般に事件後数週から数ヵ月の間にみられますが、ときには数年経ってから発症することもあり、次の3つが主な症状です。


■ 再体験症状
 再体験には、フラッシュバックと悪夢があります。フラッシュバックとは、幻覚・幻聴を含む衝撃的な体験の再現視のことです。本人の意志に反してリアルに心の中で何度も思い描いてしまう場合もあります。悪夢には、事件を生々しく再現してしまうものと、悪夢ではあったが、内容を覚えていない場合とがあり、冷や汗、動悸、呼吸困難など 激しい不安に襲われます。子どもの場合、その体験を思わせる遊びや話を繰り返すこともあります。


■ 回避(逃避)症状
 恐怖体験がなかったように考えたいという症状です。恐怖体験を思い出させる事柄、たとえば場所や人を意識的あるいは無意識的に避けます。また、ショックがあまりに大きいと、それに関することを思い出せないことがあります。そして、他人から孤立し、みんなとは違う世界に住んでいるように感じ、家族や友達の会話が宙に浮いているように感じます。

 現実感がなくなり、自分が自分でないといった感情もみられます。(解離症状)また、一般的な物事への興味や将来への希望が喪失し、喜怒哀楽といった感情が乏しくなります。また、「自分はすぐに死んでしまうのだ」という感覚を持つようになってしまう場合もあります。

 子どもの場合、ぼんやりして、夢をみているかのように長時間過ごしたり、時には基本的な日常行動も取れなくなる場合もあります。また、記憶力や集中力の低下なども挙げられます。


■ 過覚醒症状
 神経が興奮状態にあり、なかなか眠ることができず、また、やっと眠ることができても何度も目を覚ますようになります。また、いらいらして怒りっぽくなり、物事に集中できなくなります。そのほか、過度の警戒心、ささいな物音に飛び上がるように驚くことなどがあります。



子どものPTSDへの対応

■ 子どもに安心感を与える、つくる。
◇ 一人にしないようにし、家族で一緒に食事をしたり、遊んだりする。
◇ 小さい子どもほど、抱きしめるなどのスキンシップをする。
◇ 悲しみ、怒り、不安を感じることは普通のことであると教える。
◇ 自分を責めている子どもには、状況を子どもが理解できる範囲で論理的に説明して「(災害が起こった原因は)あなたのせいではない」と強調する。
◇「頑張って。」とか「我慢して。」とは言わない。
◇ 苦しい思い出に打ち勝つよう、楽しかった時の思い出を語ったり、これから先の楽しみに出来るプランをつくる。
◇ 赤ちゃん返り(退行)をしても、しからない。
◇ 毎日の生活リズムを崩さず、規則正しい生活を守ったり、生活に計画性をもたせる。
◇ 子どもが離れようとしないときに、どうしても別れて行動しなくてはいけない場合は、どこに、誰と、なぜ、いつ戻ってくるかを伝える。約束に戻れない時は必ず連絡を入れる。

■ 子どもが混乱している内容を整理する
◇ 苦しい思い出や不安が何なのかをしっかりと確認するように励ます。決してごまかしたり一般化したりさせない。
◇ 子どもの質問が同じことの繰り返しでも、丁寧に何度も答える。違う人に同じ質問を何度もする場合、特に精神的なことや死についてなどは、答える側によって答えが変わり、かえって子どもを混乱させる事があるので周囲の人たちは答え方に一貫性をもたせる必要もあることもある。

■ 子どもの話をじっくりと聞く
◇ 話を聞くための時間と空間をもうけ、子どもが話しているときは、じっくりと耳を傾け、子どもの気持ちを受けとめる。自責や怒りの、通常不適当だと思われる言葉でも否定してはならず、「つらいけれど、そのような気持ちを持って良いよ。」と肯定しながら聞く。
◇ 話そうとしない子どもには無理に聞き出すのではなく、人形や指人形を使って人形を通して話したり、下記の活動の場の3項目などの、子どもが感情を表現しようとする手助けをする。
◇ 言語能力が発達していない子どもには、雑誌・写真・絵などを使用して嬉しい、困った、悲しい、つらい、寂しい、不安、怖い、いらいら、むしゃくしゃといった気持ちを表す言葉の理解を深めて、表現力を高める。

■ 子どもに活動の場を与える
◇ 子どものペースに合わせて、友達とのコミュニケーションや、スポーツの場に参加させる。上手い下手は関係なく楽しむのが目的なので強要しない。
◇ 貢献しているという気持ちを持つことは回復に役立つので、負担にならない程度の手伝いをさせる。あまり大きな責任を与えるとかえって負担になるので注意。また、これらを強要しない。
◇ お絵かき、作文、粘土、貼絵、ぬり絵、踊りなどの子どもが得意な表現方法で自由に気持ちを表現させる。作品を評価するものではない事を伝え、完成したら作品について話したいことがあれば話してもらい、話さない子どもには話す子どもの話を聞いてもらうだけでも良い。

■ 注意すること
◇ 子どもが話をしているときの返しとして、「なぜ」「どうして」という質問はしない。話さなければいけないと思い、それがプレッシャーとなり話したくないことや、思い出したくないことを思い出さなくてはならなくなったりするため負担が大きい。自分で話したい事を自分で考え、表現することは頭の中を整理することにつながるため、気長に相手の気持ちに同調しながら話を聞く。
◇ 子どもとの遊びで、子どもが不安やいらいら等を暴力的な形で表現する事があるが、長い時間にわたって負のテンションが上がり続けることは避ける。それらは社会上好ましくない行為であるため容認するのは良くない。その場合は違う遊びに転換するか、言葉で理解できる子どもには暴力は良くないことだとしっかりと伝える。
◇ 不自然な感じをうけるくらい良い子ども(被災後に急に親の言う事を聞くようになった子、自分からすすんでお手伝いするようになった子など)について、その子自身の成長の可能性もあるが、子どもは無理をして良い子を演じていることがよくあるため、そういった子どもをほめるときは、その行為をほめるだけでは逆効果になる事がある。行為をほめるのではなく、無理して頑張っている気持ちを理解していることも伝えた上でほめる。
◇ 子どもの不安な気持ちの表れに対して、曖昧な返事や対応をしたり誤魔化したりすると、子どもが余計に不安になるため、子どもの気持ちを理解していると伝えた上で、自分も同じ気持ちで分からない。難しいね。などと、自分もその質問の答えが同じように分からない意味の返事をし、専門家や他の支援者に相談をして後日、対応するようにする。

■ 被害をうけた人を傷つける言葉
◇ がんばれ。
◇ あなたが元気にならないと、……なのよ。泣いていると、……なのよ。
◇ 命があったんだからよかったと思って。
◇ まだ、家族もいるし幸せなほうじゃないですか。
◇ このことはなかった事と思ってやり直しましょう。
◇ こんなことがあったのだから、将来きっと良いことがありますよ。
◇ 思ったより元気そうですね。
◇ 自分ならこんな状況は耐えられません。私なら生きていけないと思います。

 これらの言葉を言ってしまっても、笑顔で受け答えてくれ励まされたかのように振舞う人が殆どです。また、言ってしまった事を気付いても、焦って言い訳すると、余計に失言を強調する恐れがありますので、下手な言い訳になってしまいそうなら、言い訳しないほうが良いです。




 大人が心的外傷を受けた場合、現実の体験を客観視することができますが、子どもの場合、災害、事件、事故現場での衝撃を主観的な情報と一緒に取り込んでしまい、精神を直撃するため、その影響が深刻になります。

 また、親が不安を抱えたまま子どもに対応していれば、子どもたちは親の不安も取りこんでしまい、症状が悪化したり、親を安心させるために自分の不安や恐怖を抑圧してしまう場合もあります。親に目立ったPTSDの兆候があるときは、親のケアも子どもにとっては必要である。間違っても子どもとおなじ被害にあっている親に対して、子どものためとはいえ、「頑張りなさい。」「しっかりしなさい。」とは言ってはいけない。親の気持ちも理解するよう努める。

 親の状態を把握したい場合、睡眠状態や食欲など日常生活の話題から入るなどすると、話が進みやすくなる。いきなり、確信を突くような質問をすると、多くの大人は自分は正常であると見せようとするため、心の声を見つけにくくしてしまいます。

 親の状態が非常に悪い場合、子どもへの影響を考えて子どもを親戚に預けたりする方法もありますので、深刻な場合は専門家に相談して適切な処置を求めて下さい。

 最後に、精神科の医者や心理系の専門家でない人や、もしそうであったとしても、手に負えないと思ったとき(そう思うのも大切)は、仲間や他の専門家に相談して自分ひとりで抱え込んではいけません。支援者側も関わる事によって大なり小なり心を傷ついてしまうのが人間なのです。また、自分の心の状態も確認しながら活動しましょう。


子どもの精神保健チェックリスト

Federal Emergency Management Agency  School Intervention Following a Critical Incident.1991.

 下記のうち七つ以上が当てはまる場合は、専門家に相談に行くことを勧めます。また死について普通以上の関心をもっていると思われる場合や自殺の可能性が考えられる場合などは、たとえ七つ以上を満たしていなくても、すぐに専門家の援助を得ること。

災害が起こる1年以内に家族の一員が亡くなったり、子どもが大病や怪我で入院したり、両親が別居または離婚をしたことがある。

災害後、避難所の生活が一週間以上続いた。

両親や家族と離ればなれの生活が一週間以上続いた。

全く言うことを聞かなくなった。

両親や家族の一員が亡くなったり大怪我をする、または子どもが大怪我を負う。

◎災害後三週間以上にわたり、災害前には見られなかった以下の症状を示していますか。

悪夢にうなされる。

注意力低下・散漫。

些細なことにいらいらし、すぐに怒る。

赤ちゃんがえり(トイレに一人で行けない、赤ちゃん言葉、指しゃぶりなど)。

10

吃音(ことばを発する時、第一音や途中の音が詰まったり、同じ音を何度も繰り返したり、音を引き伸ばしたりして、流暢に話すことができない状態)やチック。

11

しつこく、大袈裟な不安や恐怖。

12

頑固・強情。

13

脅迫的行為や儀式(手を洗う、窓が閉まっているかいつも気にするなど)。

14

睡眠障害、眠りになかなか落ちない、すぐに目が覚める。

15

継続的な身体症状(頭痛、腹痛、めまい、嘔吐、発熱など)。

16

気分が常に落ち込んでいる、すぐ泣く。

17

災害前まで好きだったことをしない。


※ これは、家族や先生や第三者等がPTSDを理解して接しても
改善がみられない場合にチェックしてみて下さい。

支援者の精神保健チェックリスト

 下記のうち二つ以上が当てはまる場合は、心理的影響が生じる可能性が高い仕事と考えられます。

通常では考えられない活動状況であった。

悲惨な光景や状況に遭遇した。

ひどい状況の遺体を眼にした。あるいは扱った。

自分の身内と同じ年齢の子どもの遺体を扱った。

被害者が知り合いだった。

自分自身あるいは家族が被災した。

活動を通して殉職者や怪我人が出た。

活動を通して命の危険を感じた。

活動を断念せざるを得なかった。

10

十分な活動ができなかった。

11

住民やマスコミと対立したり、非難された。

 下記のうち三つ以上が当てはまる場合は、活動による心理的影響が強く出ており、何らかの対処が必要である。

動揺した、とてもショックを受けた。

精神的にとても疲れた。

被害者の状況を、自分のことのように感じてしまった。

誰にも体験や気持ちを話せなかった、話しても仕方がないと思った。

仲間や組織に対して怒り、不信感を抱いた。

ボランティアに来た事を後悔した。

やる気をなくした。二度としないと思った。

投げやりになり、皮肉な考え方をしがちである。

あの時ああすれば良かったと自分を責めてしまう。

10

自分は何もできない、役に立たないと無力感を抱いている。

11

何となく体の調子が悪い。


※ これは、支援者がPTSDになること、なった事を早期発見するためのチェックリストです。
長期で活動に入っている方は無理をしないようにしましょう。
子どものケース別シート       初回記入日:  年  月  日

地区名

初回
記入者名

氏名

性別

学年(年齢)

生活環境(被災後の生活の状況、家族構成等)

事象 下記のチェック欄は年齢は気にせず、あればチェックする

□指しゃぶり   □しがみついて離れない  □吃音・どもり  □発熱

□おもらし    □一人でトイレに行けない □やたらに抱っこを要求する

□赤ちゃん言葉  □いらつく   □ぐずる □甘えてまとわりつく

□乱暴な行動   □乱暴な言動  □大人の注意を求めて争う

□暗い所を怖がる □夜泣     □悪夢  □学校や友達に興味をなくす

□睡眠障害    □食欲の変化  □無責任 □非協力的  □反抗的な態度

□学業低下    □集中力の低下 □自分の世界に引きこもる  

□身体的症状(腹痛、頭痛などその症状            

※以下は、以前に比べての変化についてです。

□何でもよく食べるようになった   □学校や幼稚園に行きたがるようになった

□兄弟や友達と喧嘩をしなくなった  □大人の言う事をきくようになった

□家事の手伝いをするようになった  □物を大切にするようになった

□以前よりしっかりしてきた

上記以外の気なる点があれば記して下さい。

初回記入より変化のあった事を記して下さい。(その内容、記入日)

対応(事象に対しての一貫した対応が必要な場合に記す)

※プライバシーの保護に注意して下さい。